テクノロジー

我々は細胞シミュレーション技術の開発で世界をリードしています。シミュレーション手法や可視化手法、モデル構築技術の開発を中心に、その応用や他分野への展開なども模索しています。

E-Cell System

E-Cellは我々が1996年から開発を進めている汎用の細胞シミュレーションソフトウエア基盤です。本研究室では、現在細胞内の環境における1分子粒度の精密なシミュレーションを主眼とする次世代版のVersion 4の開発を進めています。現行版であるVersion 3は、慶應大学冨田研究室に開発を引き継いでいます。

グリーン関数反応動力学法(GFRD)

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eGFRD法を用いた分子間反応ネットワークの1分子粒度シミュレーション

GFRD: Greens Function Reaction Dynamicsは細胞内など溶液中の粒子の拡散運動と反応現象を同時に、かつ分子一つ一つの動きまで考慮した1分子粒度で再現できる一群の高性能計算手法の総称です。本研究室の高橋らが開発したGFRDの一種であるeGFRDは、近似を用いない正確な粒子反応拡散法としては現在世界最高の性能を保持していると考えられます。現在、スーパーコンピューターでの実行に適したさらに高性能なpGFRD法の開発に取り組んでいます。E-Cell System Version 4が目指す1分子粒度での細胞シミュレーションを実現するテクノロジーの一翼を担います。

Spatiocyte

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Spatiocyteによる細胞シミュレーション

SpatiocyteもE-Cell 4の主要な特徴となる1分子粒度シミュレーション手法の一つです。連続的な空間での分子の動きを追うGFRD法と異なり、Spatiocyteは格子状に離散化された空間の中での運動を計算します。このことで、計算の細かさ(解像度)を多少犠牲にしますが、代わりに計算にかかる時間を大幅に短縮できます。Spatiocyteのオリジナル版は本研究室のSatya ArjunanがE-Cellの現行版であるE-Cell 3上で開発しました。現在、「京」スーパーコンピューターに最適化された並列版pSpatiocyteの開発が進んでいます。さらに、細胞膜や細胞内小器官の複雑な形状や、それらの力学的な変形などの表現にも拡張を進めています。

蛍光顕微鏡シミュレーター

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全反射顕微鏡のまるごとシミュレーション

次世代版E-Cell Version 4の特徴である1分子粒度シミュレーションが画期的である理由の一つは、1分子生物学実験が提供する生きた細胞内の分子の運動と反応の直接的な観察データをそのまま用いることが出来る点にあります。この特徴は、これまでの細胞シミュレーションの大きな問題であったモデルパラメータの不足、また定量性の欠如という困難を克服する突破口となる可能性があります。1分子粒度シミュレーションと1分子実験を直接比較可能とするために、レンズやレーザー発振器、センサー、また蛍光色素の特性などをまるごとコンピュータ内でシミュレーションし、シミュレーション結果の数値データをあたかも共焦点レーザー顕微鏡、全反射蛍光顕微鏡(TIRF)や蛍光相関分光法(FCS)などで観察したように可視化出来るデータ処理技術を開発しています。この技術は、シミュレーション結果を分かりやすく意味のある形で可視化出来るようにするだけでなく、顕微鏡技術の高精度化などの発展にも寄与する事が期待されています。